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弁護士の日記帳

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マンション共用部分は邸宅?

「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」(刑法130条)。

人の家に勝手に入ったり、出て行ってくれと言われたのに居座ったりした場合に適用される条文です。

 

では、マンションの共用部分に勝手に立ち入った場合はどうなるのでしょうか。例えば認知症の高齢者が自分の管理するマンションと勘違いして廊下を歩いたからといって刑罰が科されるといったことは決してあってはならないと思いますが、例えばオートロック等の設備があるにもかかわらず侵入して強引な宗教の勧誘をするなど態様が悪質であれば処罰ということも大いに考えられると思います。

 

ところで、マンションの共用部分は、上記条文の「住居」、「邸宅」、「建造物」、「艦船」のいずれにあたるのでしょうか。

条文を見てわかるとおり、「住居」、「邸宅」、「建造物」、「艦船」の4分類しかなく、「住居」以外であれば「人の看守」するものでなければなりません。

これまで共用部分への侵入が問題とされた裁判例をみると、平成20年4月11日の最高裁判決及びその原審は、第一審が「住居」と認定したのに対して、「邸宅」と認定し(防衛庁立川宿舎事件)、平成21年11月30日の最高裁判決は、第一審及び控訴審が「住居」と認定したのに対し、特に判断を示しませんでした(葛飾マンション事件)。

 

私が弁護人を務めた事件では、「住居」に立ち入ったとして起訴されたのですが、「起臥寝食の場と考えるには無理があるので住居ではない。建造物である。」と弁論したところ、検察官は、判決の直前になって「住居」から「邸宅」に訴因変更(起訴状の訂正のようなもの)をしてきました。

 

最も驚いたのは、被告人です。「私は、マンションの共用部分には立ち入ったが、邸宅になど入った覚えはない!」と。

 

大辞泉によると、邸宅とは「家。すまい。特に、構えが大きくて、りっぱな造りの家。やしき。」とあります。

確かに「邸宅」とは、違和感を覚えます。オートロック等の設備によって強度の閉鎖性がある場合は別として、誰もが簡単に入れるマンションの共用部分は、普通に考えれば、「住居」でも「邸宅」でもないように思います。となれば、残るは「建造物」か。

明治41年の刑法制定当時には、そもそもマンションの共用部分などといった発想はなかったはずです。平成7年の刑法現代語化の際にも、マンションの共用部分への不法侵入といったことは余り意識されなかったのだと思います。

法律用語と一般用語の乖離を縮めるべく、不断の法改正の努力の必要性を感じます。

(横井盛也)

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だけど誰かが

 飲食店での牛生レバーの提供が原則禁止されることに関しては、賛否があることでしょう。北村弁護士は、断固反対の立場を表明していますが、私は、(もし生レバーが本当に危険であるならば)国家が介入し、規制することに賛成です。

 

国民の健康や安全を守ることは、国家最大の使命です。現実的な危険の存在が明らかになっているのに放置することは許されず、その危険を回避すべく国権を発動することは当然の責務といえるのではないでしょうか。現に数多くの薬品や食品添加物にも厳格な規制が施されています。今回の生レバーに関していえば、時機を得た正当かつ適切な規制なのだと思います。

 

<なぜ太平洋をヨットで渡ろうとする人を、危険だからと止めないのでしょうか。なぜエベレストに挑むアルピニストを止めないのでしょうか。なぜボクシングでもラグビーでも、わずかでも命を落とす可能性のあるスポーツを止めないのでしょうか。>

 

それは、危険の程度が極めて低いこと、リスクと得られる効用を比較して得られる効用が上回ると考えられること、法律等で国民一般を規制するような性質の危険ではないことなどによるものです。(さすがにスカイツリーから飛び降りようとしている人がいれば、法律等の規制がなくとも目の前にいる人たちが止めるはずですし、警察官職務執行法に基づく保護措置等をとることも可能です。)

 

政治の起源は、一人ひとりではできないことを誰かが先頭になって行うことを可能にするために権力を集中させるところにあるのだと思います。エジプト文明、メソポタミア文明等の古代文明は、毎年氾濫する大河に立ち向かうため権力を王に集中したとされています。現代においても、国民一人ひとりではできないことを有機的に結び付けて安全で豊かな社会にするため、国家による正当な権力の適切な行使が期待されているといった事情に変わりはないと思います。

 

個人の自由や権利は最大限に尊重されなければなりませんが、正当な権力の適正な行使をすべからく否定するような思想には賛同できません。日本国憲法前文には次のような記述があります。

 

「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」

(横井盛也)

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最強の弁護士

「リーガル・ハイ」の古美門研介、「弁護士のくず」の九頭元人、「離婚弁護士」の間宮貴子。

テレビドラマ主人公の弁護士は皆、破天荒なまでに個性的でかつ超人的な問題解決能力を備えている。

本筋を鋭く見抜き、何手も先を読み、崖っぷちに追い込まれても、ある時は奇策を用いて真相を突き止め、またある時は正面突破によって隠された本音を引き出して一気に形勢を逆転して勝利を収める。

 

実在すれば、誠に手強い相手である。

3人が弁護団でも結成しようものなら、こちらはもうお手上げ。勝ち目はない。

ドラマを見るたびに背筋が寒くなる。そして、祈る。

<相手側代理人が古美門、九頭、間宮でありませんように…>。

 

でも、これではいかん。こんなことを書いていたのでは、顧客が逃げてしまうし、クライアントに妙な不安を与えてしまう。

<最強の弁護士であらねば。自分には古美門、九頭、間宮を超える義務がある>。

 

では、どうすべきか。兵法にある。<敵を知り、己を知れば百戦危うからず>。

ドラマを深く研究することにした。まずは、放映中の「リーガル・ハイ」。

古美門の勝因、相手方の敗因、古美門の訴訟テクニック、相手方に不足した法律上の主張、立証などを徹底的に分析し、古美門を破るための手法を身に付けよう!

 

意気込んではみたが、研究を進めれば進めるほど、古美門の実力もさることながら、このドラマの完璧さに圧倒される。

奇想天外なストーリー、小気味良いテンポ、練り尽くされたシナリオ、奇抜な演出、この上ない配役、洗練されたカメラワーク。すでに芸術の域に達している。

けど、敵は強ければ強いほど、自分を強くする。

気圧されそうになりながらも、人知れず「リーガル・ハイ」と格闘している。

(横井盛也)

 

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賭博罪と競馬の関係

「なんと勝ったのは、2番、2番、2番。大外からグングン差してなんと1着はレッツゴーターキン。そして2着は12番。ムービースター。勝ち時計は…」。

予想外の展開に実況アナウンサーは、勝馬の名前が即座に出てこず、声が上ずっていた。

トウカイテイオー、ライスシャワーなど時の名馬が揃った1992年秋の天皇賞。残り1ハロンで、人気薄の無名馬が大外後方から一気に馬群を差し切ったレースは圧巻だった。

この瞬間、私は176万円の不労所得を得た。 

その後暫くして何となく競馬に対する興味をなくし、以後馬券を購入していないので、トータルで損をしていないことになる。が、馬券の売上げによりJRAが収益を上げ、また国の財政に貢献しているのだから、「損をしていない」というのは極めて稀なケースに違いない。 

 

競馬は、事前に決まっていない結果について財物を賭けるものゆえ賭博罪にいう賭博にあたる。にもかかわらず、競馬をしても賭博罪(刑法185条)や常習賭博罪(刑法186条)に問われないのは、競馬法により正当行為とされているからだ(刑法35条)。 

競馬等の公営ギャンブルは国や地方自治体の貴重な財源として、はたまたファンの娯楽としてそれなりに存在意義はあるのだろうが、はまりこんでしまい破滅してしまう人がいることも事実。仕事柄、生活資金までギャンブルにつぎ込んでしまって一家離散、挙句の果て犯罪に手を染めてしまったという悲劇的なケースに遭遇したこともある。

 

賭博罪の処罰根拠は、判例や通説では、「労働による財産の取得という国民の健全な経済生活の美風を守り、併せて賭博に付随して生じる財産犯などの犯罪の発生を防止するため」と説明されているが、建前にすぎない。

仲間内のトトカルチョや賭麻雀が賭博罪で処罰の対象になるのに、公営ギャンブルは何のお咎めもなし。いくら馬券を買おうが制限はない。

賭博罪の処罰根拠は、「ギャンブルを国の管理下において、公営ギャンブルの収益を確保するため」と説明した方が実情に即しているのではないかと思う。

せめて個人が購入できる馬券の額を制限するなどの対策がとれないものかと思うが、現状では自分でセーブするしかない。

 

偉そうではあるが、勝ち逃げした元競馬ファンから競馬で損をしないためのとっておきの秘訣を伝授したい。

<やればやるほど必ず負けるものだと心得るべし>

<勝ったらすぐに引くべし>

<負けても取り返そうとするべからず>

(横井盛也)

ある破産の現場

以下は全くのフィクションですが、結構リアルなフィクションだと思います。

法律の条文は味気ないですが、法律が適用される現場は、ときにドラマ以上にドラマチックです。

 

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「この会社は破産しました。皆さんは、本日をもって解雇ということになります」。

集まった約50人の従業員を前に淡々と話す弁護士の低い声が会議室に響くと室内の空気が一気に凍りついた。

「1週間前に破産の申立てをしており、本日午後5時に破産開始決定が出ることになっています。裁判所との協議により、取り付け騒ぎを防止するため一部の幹部を除いて本日まで秘密にさせていただいておりました。破産開始決定と同時に私とは別の破産管財人の弁護士が選任され、以後その管財人がすべての事務を執り行うことになります。…」。

 

突然の事態に、みな一様に唖然としていたが、工場作業服に身を包んだ中年男性が「首吊れいうてんのか」と説明を遮ると、会議室は怒号と涙声が交錯する修羅場へと一変した。

「明日からどうやって飯食うてったらええんや」、「5日後に迫っているローンの支払い、どないしたらええんや」……

今にも掴み掛ってきそうな緊迫した雰囲気の中で弁護士は、落ち着き払って「皆さんの気持ちはよくわかります。しかし、やむを得ない措置なのです。事情については詳しく説明させていただきます。質問にも誠心誠意お答えさせていただきます。」と話し、準備していたレジュメを配り始めた。

やり場のない失望に声を荒げる場面、もらい泣きが連鎖する場面など感情の起伏を伴った時間が経過する。

「今月の給料はどうなるのか」、「明日から健康保険は使えるのか」、「ぎりぎりの生活をしているのに1日でも失業すれば食べていけない」、「ローンの支払いに追われている。私も破産だ」、「社長はいくらかでも金を持っているはず。従業員に分け与えるべきではないのか」、「なぜもっと早く知らせてくれなかったのか」……。

弁護士が1つ1つの質問に答えるうち、従業員は徐々に自らの身に突然降りかかった運命を受け入れてゆき、従業員らは互いに別れを惜しみながら、また、将来を励ましあって会社を去って行った。

若く礼儀正しく真面目な工員が、「班長。いろいろと教えていただいてありがとうございました。なかなか仕事が覚えられずに、ご迷惑をおかけしました。」と深々と頭を下げると、いかつい顔をした中年班長が「もうええんや。終わったんや。お互いしっかり生きていこ」と手を握った。両者の目に涙が光った。

 

従業員が去った後の静けさの中で、この日の会計処理、在庫の封鎖、工場の施錠などの処理を終え、社長、工場長、経理担当常務が会社の門を出る。弁護士が門の施錠をし、破産を知らせる貼り紙をすると、それまで感情を押し殺していた三代目社長が、「どうにもならんかったや」と地面に付し、大粒の涙を流した。

******

 

勤めている会社の破産は、一般市民にとって一生に一度遭遇するかどうかといった非日常的な出来事に違いありません。非日常的な出来事にこそ関わっている弁護士にとっては数多くの事件のうちの1件でも、当事者にとっては人生を変える大きな局面であるに違いありません。

現実社会は感情を持った生身の人間が大勢いる大きな世界です。理不尽なことが満ち溢れています。

フロイトは、人が辛い出来事を受け入れるようになるまでには、否認、怒り、悲しみ、絶望、諦め、受容という過程をたどると分析しています。

私は、この分析は、かなりの程度正しいと折に触れ実感しています。

 

突然の災難に打ちひしがれる人たちに寄り添って、その気持ちを汲み取り、冷静かつ適正に支援の手を差し伸べられる弁護士になれるよう精進したいと考えています。

(横井盛也)

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