名演説と独裁者
- 2012-12-02 (日)
- 横井弁護士
ヒットラー政権が民衆の圧倒的な支持の下で生まれ、ドイツ国民の多くがその誕生に欣喜雀躍し、明るい未来に酔いしれたことは、紛れもない歴史的事実です。そして、ユダヤ人を迫害し、ホロコーストに及んだこともまた事実です。
独裁政権は、移ろいやすい民意の下で民主的、合法的に生まれるのです。
そして、熱しやすい世論に支えられて持ち前の実行力を発揮し、ますます民衆の熱狂を高めていきます。
人は周りの環境に影響されやすいものです。
催眠状態に陥った大衆の総意ほど危険なものはありません。
民主主義は実に面倒臭く、大衆の支持を得た独裁の方が、革命的な社会変革が容易です。
しかし、大衆に媚びることなく専門的知見を尊重し、少数意見にも配慮しながら歴史や伝統を尊重して着実に漸進させることは大切なことで、そのプロセスを経ずして明るい未来は訪れないと思います。
一度ぶっ壊して新たな日本を創るなどといったコンピューターゲームのリセット機能のような発想に期待を抱くことは危険です。
もうすぐ衆議院選挙。
人心をくすぐる過剰な熱量を放った名演説、現実を直視せずバラ色の夢だけを語ったマニュフェストに欺かれないよう細心の注意が必要です。
これまでの独裁者は、みな名演説で知られています。
ヒットラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東しかり。
現状を嘆き、心に残るキャッチコピーで人の心をつかみ、ともに未来を切り開こうと夢と希望を熱く語ります。
ヒットラー曰く、「我々の国は衰退していく一方だ。」、「我々自身が、ドイツ民族を、その勤勉と決断と誇りと屈強さによって繁栄させよう。」、「自由と幸福は、突然天から降ってはこない。」、「ドイツは今、覚醒したのだ。」、「ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ!」、「世界制覇か滅亡か」。
そして権力を握るや民意を武器に、政敵を容赦なく排除し、全権委任法により文字通り全権を掌握するに至るのです。
「今このまま放っておいたら日本は沈没する。」と必要以上に危機感を煽り、「明治維新以来だれもやったことのないこと。今の日本の仕組み、日本の体制を変える。」などといった耳触りのよい甘言で人の心を引きつける演説には、危険な魔力が潜んでいるような気がしてなりません。
私は、たとえ媚びも色気も素っ気もない演説であっても、国の将来を真摯に見据えた候補者に一票を入れたいと考えています。
(横井盛也)
PS
① 私は、特定の政党と関係を有する者ではなく、無党派層と自認しています。
② いかなる思想信条の方であっても、分け隔てなく仕事をさせていただいております。弁護士業務は政治と一線を画するべきであると考えております。
③ ヒットラー演説の訳につきましては、「独裁者の最強スピーチ術」(川上哲也著・星海社)を参考にさせていただきました。
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政治家に期待すること
- 2012-11-26 (月)
- 横井弁護士
衆議院選挙を来月に控え、各政党が公約を発表しています。
政党間の離合集散が行われ、消費税、TPP、原発、国の制度改革等々についての議論がそれなりに深まっているように思いますが、明快な視界を開いてくれる議論がなされていないことに幻滅しています。
候補者らは、この国が、はたまた世界が今どのような問題に直面しているのか正しく認識できているのでしょうか。
この国をどのようにしたいと考えているのでしょうか。
「ものづくり大国」の根幹を支えてきたメーカーをはじめ、多くの企業で大規模なリストラが行われ、失業者や生活保護受給者が増加しています。
自己実現の場がなくなるということは、それ自体不幸なことですし、失業者があふれる社会は、消費力を低下させ、生産性を上げれば上げるほど利益が得られなくなるという負のスパイラルに陥ります。
20世紀後半からのIT革命により、生活は豊かで便利になったように思えますが、本当に幸福になったと手放しで喜んでいてよいのでしょうか。
コンピュータ制御で工場労働者は激減し、ATMやネットバンキングの普及で銀行窓口の係員の数も減りました。ICOCAやPiTaPaの普及で駅員の数は減っていますし、パソコンによる事務の省力化で人手に頼っていた多くの仕事が失われています。
IT技術が人間の生産性を上回り、失業者をどんどん生み出し続けているのです。
私は、我が国や先進諸国は、18世紀の産業革命後の大量失業者時代とよく似た状況下にあるのだと思います。
産業革命及びその後の科学技術の急速な進歩は、大量失業者を生むという負の側面があったにせよそれを乗り越え、我々の社会を豊かなものに進化させました。
IT革命も負の側面を乗り越え、人が真に幸福になるためのシステムづくりが急務です。
(アダム・スミスの「見えざる手」は、稀少な財の配分には有効ですが、財が溢れている局面ではうまく機能しませんので政治の介入が必要です。)
18世紀の産業革命後の負のスパイラルを断ち切ったのは、欧米列強の植民地獲得競争でした。
しかし、法と正義が支配する現代のグローバル社会で通用する手法ではありません。
ではどうすればよいのでしょうか。
大局的見地から現状を正しく認識したうえで、生産と消費を拡大し、失業者を減らすための目の覚めるような政策を説く政治家の出現を期待しています。
(横井盛也)
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貴重な体験 <取調べを受ける>
- 2012-11-21 (水)
- 横井弁護士
「…なんといっても弁護士は、信用が大切であり、勝手に私の名前を使って人を騙すなんて迷惑なことです。Aさんには、2度とこのようなことをしないよう深く反省し、しっかり更生してもらいたいと思います。…」
刑事さんから協力を要請されて、某警察署に出頭。
取調室で取調べ?を受け、調書を作成してもらいました。
読み聞かせの後、署名、押印して参考人供述調書が完成。
めったにない貴重な初体験でした。
(狭い密室で可視化<録音・録画>されていなかったのは残念ですが、感じのよい刑事さんで誘導質問等はありませんでした。)
このAさん。数年前に事件を起こし、その時に国選弁護人を務めたのが私でした。
その時は、反省し、もう悪いことは絶対にしないと誓っていたのですが、更生が不十分だったようです。
今回は、トラブルに巻き込まれた知人に対し、「よく知っている横井弁護士に事件の処理を依頼した。」などと嘘をついて、着手金の名目で数百万円を騙し取ったとの容疑だそうです。
逮捕、勾留されたAさんは、被疑事実を全面的に認め、「横井先生には大変お世話になったのに迷惑をかけてしまい申し訳ない」と反省の弁を述べているとのこと。
本当に迷惑な話です。
(なお、名誉にかけて強調しておきますが、私はいつも低廉な価格でご奉仕させていただいており、数百万円なんて着手金を貰ったことは一度たりともありません!)
もう2度と犯罪をしないという言葉を信じていたのに、今回のようなことがあって自身の無力を感じます。
ところで、刑事弁護人の役割って何でしょうか。
私は常々、誤った裁判をさせないこと、そして犯罪のない世の中にすることと考えています。
事実関係に争いがある場合には、検察側と弁護側が全く反対の立場から事件を検証し、主張と主張をぶつけあう対立構造の中からこそ真実が浮かび上がり適正な事実認定が可能になるのだと思います。
そして、事実関係に争いがない場合には、被疑者、被告人に有利な情状を主張するとともに心からの反省を迫ることで、再犯を防止できるのだと確信しています。
最近は民事事件の受任が増え、刑事事件がめっきり減っていますが、
今回の件にめげずに、刑事弁護人の仕事に誇りを持って、今後も精進していきたいと考えています。
(横井盛也)
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東電OL殺害事件について思うこと
- 2012-11-08 (木)
- 横井弁護士
東京電力OL殺害事件の再審で無罪判決が確定しました。
ネパール人男性の冤罪からの救済は果たされましたが、逮捕から15年もの間、異国で身体の自由を奪われ、名誉を害されたことの苦痛は筆舌に尽くしがたいものがあったに違いありません。
検察や裁判所は大いに反省する必要がありますし、私も司法の末端に連なる者として、この事件を重く受け止めなければならないと感じています。
この事件は、東京高裁で逆転有罪となり、最高裁もそれを支持したのですが、そもそもの東京地裁(平成12年4月14日)は無罪判決でした。
この地裁判決は、数々の情況証拠を合理的に認定できるものとそうでないものとを明確に分類した上で、被告人が犯人であると推認させるのに積極に働く間接事実と消極に働く間接事実の双方について詳細かつ的確な評価を行い、真相を鋭く見抜いています。
「現場からは全くの第三者の陰毛が三本発見されているほか、そのうち一本は、被害者のショルダーバッグ取っ手から検出された血液型と同一であり、客観的には、右陰毛の由来者も、被告人同様、犯人としての資格を有することになりえ、さらに、そのような陰毛の存在や被害者の行動等からすると、被害者が犯行現場であるアパートを独自に使用した可能性を完全には否定しきれない。」と指摘していますし、被告人が犯人だとすると矛盾したり、合理的に説明が付けられなかったりする数々の事実の存在も指摘しています。
大淵敏和裁判長、森健二裁判官、高山光明裁判官の慧眼に敬服するほかありません。
マスコミは、今回の再審無罪判決を受けて、検察は自らの主張の過ちを認め、検証をせよとの論陣を張っています。
正論ですが、マスコミも素直に過ちを認め、深く検証し、大いに反省すべきだと思います。
被害者の行状が大々的に報道され、亡くなった被害者、そのご家族や関係者らに多大な苦痛を与えたこと、被告人が真犯人であるかのように強く印象付ける過剰報道を行ったことは紛れもない事実だからです。
(横井盛也)
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提言①
- 2012-11-05 (月)
- 横井弁護士
「甲子園球場をドーム球場に!」
唐突ですが、真面目な提言です。
理由は2つあります。その一つは、阪神タイガースを強いチームにして関西を盛り上げるため、そしてもう一つが高校球児の健康を守るためです。
まず、前者について。
今年のプロ野球は、セ・リーグ優勝チームの巨人が日本シリーズを制して日本一となり、幕を閉じました。
阪神タイガースはセ・リーグの5位。当事務所は2度応援に行きましたが効果はありませんでした。
今年のクライマックスシリーズのファイナルステージに残ったのは、巨人、中日、日本ハム、ソフトバンクの4チーム。毎年の常連ですが、いずれも本拠地がドーム球場です。
灼熱の真夏にドーム球場で試合ができるというのは、相当なアドバンテージなのです。
立っているだけで眩暈がするような屋外の球場と快適な室温が保たれたドーム球場とでは、体力消耗や疲労蓄積に格段の差が生じます。
甲子園球場をドーム化したら、それだけで阪神タイガースが毎年優勝するような強いチームに変身するのではないでしょうか。
そして後者についてです。
まだまだ夏の高校野球には人気があるようです。
それ自体は悪いことではないと思うのですが、じっとしているだけでも不快な極限状態の中で全力プレーを強要される球児が気の毒でなりません。
不合理な精神論を隠れ蓑とした球児虐待のようにも感じます。
過酷な灼熱地獄の中で野球をさせられる球児たちの健康が心配です。
数十年後の将来、紫外線による皮膚がんや乾きによる腎機能障害が起きないとも限らないのではないでしょうか。
快適なドーム球場で試合をする方が、ずっと健康的だと思います。
(横井盛也)
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