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違法収集証拠排除の壁

「本件捜査中、トイレの個室で用便中の被告人を監視した点に違法があったことが認められるところ、これが証拠の標目に掲記した各証拠の証拠能力を左右するかについて検討する。……被告人の尿の捜索差押手続が当該違法な監視を直接利用して行われたとはいえないから、上記の違法が被告人の尿の捜索差押手続の違法性を左右することはない。……前記各証拠の証拠能力はいずれも肯定される」

 

私が弁護人を務めた覚せい剤取締法違反被告事件の地裁判決が確定しました。

裁判所は警察の捜査の一部を違法と認定しましたが、違法収集証拠排除法則を適用しませんでした。

 

違法収集証拠排除は、最高裁判例によって確立された原則です。

手続が違法であっても証拠の価値に変わりはないのでは? 手続が違法だからといって犯人を処罰しなくてもよいの? といった素朴な疑問に対し、

最高裁曰く、≪事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり……令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである≫

 

しかし、現実問題としてこの原則が適用される場面は極めて限定的です。

捜査の一部が違法と認定されること自体、珍しいことです。

 

今回の判決は、「……そのような監視自体、被告人に相当な恥辱を感じさせ、被告人のプライバシーを制約する行為といえる。そして、当該トイレの構造上、トイレから逃走することは困難であり、用便中についてまで被告人を監視する必要性はうかがわれない。そして、被告人は、いまだ身柄を拘束されておらず、ドアを閉めるよう要求して警察官による監視を明確に拒絶していること、トイレ内に他の者がいなかったことに照らせば、自傷他害の防止といったあいまいな理由で、トイレの個室内の監視を正当化することもできない。……プライバシーを侵害して違法というべきである」と判示しています。

 

職務質問や所持品検査の方法、令状なしの長時間の留め置きについては適法と判断されていますが、違法と適法の限界で職務に当たらざるを得ない警察官の立場に鑑みると全くの誤りとはいえないのでしょう。

 

私が許せないと感じたのは、警察官が法廷で偽証したことです。

判決でも、「不合理な供述をしているのであって、その供述部分は信用できない」と断じています。

違法性を糊塗するために記憶に反した証言をして裁判所の判断を誤らせようとした行為は姑息としかいいようがありません。

 

最近は、ほぼ民事事件一辺倒となっていますが、民事では味わえない種類のやりがいを感じることがあり、「刑事はやめられない」というのが率直な心境です。

 

(横井盛也)

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