- 2013-04-22 (月) 11:20
- 横井弁護士
ドストエフスキー(1821~1881)の世界的文学「罪と罰」を現代日本に完璧なまでに蘇らせた大作といってよいでしょう。
人はなぜ人を殺してはいけないのか。罪とはどういうことなのか。罰とは何か。
重厚な哲学的テーマを圧倒的な質感で描いた芸術です。
着想をドストエフスキーの「罪と罰」から得ているというだけで、現代社会の病理を鋭くえぐった奥深い人間ドラマです。
繊細かつダイナミックな心理描写と細切れのカットを次々に小気味よく展開するスリリングなストーリーの進行に目が釘付けにされたという感じです。
長編小説を一気に読み終えたときのような心地よい余韻に浸っています。
主人公は上京後に大学をドロップアウトした小説家志望の引きこもりの青年・裁弥勒(高良健吾)。
「今こそ彼は資格を得て、ためらうことなく彼の収穫物を摘み取ろうとしていた。夏の光が降り注ぎ、横たわるそれと立ち尽くす彼を画然と分け隔てていた。心は静かに定まって、自分の鼓動さえ遠く聞こえた。自分は手に入れるだろう。約束された収穫を…」。
文学新人賞の佳作で殺人者の心理を描いた弥勒は、目の前の不条理に義憤を抱き、援助交際グループを支配する女子高生・馬場光(橋本愛)の殺害を計画します。
「崇高な目的の達成が流された血をあがなうだろう。」
奪い取る者と奪い取られる者が存在する社会の不条理に対し、自分の未来を手にいれるための正義の手段。
その計画は完璧と思われたのですが…。
弥勒の前に現れる苦悩と絶望を抱えた飴屋英知香(水川あさみ)、裏の社会で生きる謎の男・首藤魁(田中哲司)、心理戦により弥勒を追い詰めていく五位蔵人検事(伊武雅刀)、弥勒の心の屈折のカギを握る弥勒の母(萬田久子)。
様々な人とのかかわりの中で弥勒の心は動揺していきます。
台詞の一つひとつが文学的で格調高く、印象的なフレーズが耳から離れません。
首藤は「欲望を肯定しろ。地獄こそが楽園だ。」、「邪悪で冷酷。これが人間の本性だ。」、「猥雑で残酷。だから世界は美しい。」と弥勒に向かってうそぶきます。
弥勒は「力を持つものがそれを行使することが罪なのか。力を持たないことは罪なのか。」、「ちっぽけでささやかな喜びも悲しみも一顧だにせず押しつぶす残酷で霊験な摂理を神というなら、この人生、残酷な運命を出し抜いて上に立つこととて同じなのではないのか。」と自問し、「僕の人生が絶望の荒野なら、行く手を照らす光が君なんだ」と英知香に語ります。
英知香は、「愛情が暴力なんて、意味わかんない。」と叫び、五位検事は「この事件の犯人が資格を持った非凡人だと思いますか。」と弥勒に迫ります。
時代に取り残されたようなさびれた風景と物悲しいソロピアノのメロディーがドラマ全体を盛り上げています。
巨匠ドストエフスキーとの共作により人の心に宿る狂気を描くことに成功した数年に1本という珠玉のドラマだったと思います。
総合評価は、★★★★★。お奨めです。
2012年4月から6月までWOWOWで放映されていたようです。
DVDをTSUTAYAで借りることができます。
(横井盛也)
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