- 2012-07-02 (月) 9:38
- 横井弁護士
刑事法学者の第一人者で最高裁判事も務めた東大名誉教授の団藤重光先生が先月25日、98歳でお亡くなりになられました。
心よりご冥福をお祈りします。
死刑廃止論の理論的支柱、リベラル派の最高裁判事といった側面から新聞の一面に訃報が掲載されていましたが、法律を学んだ者は皆、また格別の感慨を抱くのではないでしょうか。
同じく東大名誉教授の平野龍一先生(1920~2004)とは刑事法学界を二分するライバルでした。
ある時期以降に刑法を学んだ者は「行為無価値論の団藤説」か「結果無価値論の平野説」のいずれかの選択を迫られ、その後の学説はすべてそのいずれかの系統を引き継いで発展していったといっても過言ではありません。
学界に及ぼした影響や功績は計り知れません。
刑法理論の観点から最も衝撃的だったのは、昭和57年7月16日の最高裁決定だろうと思います。
それまで共謀共同正犯否定説の旗手であった団藤判事は、詳細な意見を付けて肯定説に転じられたのです。
骨子、「社会事象の実態に即してみるときは、実務が共謀共同正犯の考え方に固執していることにも、すくなくとも一定の限度において、それなりの理由がある。」、
「法の根底にあって法を動かす力として働いている社会的因子は刑法の領域においても度外視することはできない」、
「共同正犯についての刑法60条は、改めて考えてみると、一定の限度において共謀共同正犯をみとめる解釈上の余地が十分にあるようにおもわれる」。
実際に実行行為を行わなくても背後で計画・指揮する黒幕を実行犯と同様に正犯として処罰することを可能にするのが共謀共同正犯肯定説ですが、実際の事件の処理に際して黒幕を正犯として処罰する必要性を感じられたのでしょう。
初めてこの判決を学んだ時には無節操な変節と感じたのですが、今では社会の実情に合わせるべく柔軟に学説を変えられたと評すべきであると考えています。
肯定説は当然のことのように実務に定着しました。
さらには、明示的な意思の連絡がない場合でも、黙示の意思の連絡が存在すれば、共謀者の地位や立場を踏まえた上で共謀共同正犯が認められる、とされるに至っています(スワット事件・最高裁平成15年5月1日決定)。
著書や判例でしか存じ上げない雲の上の学者ですが、その果たした功績や及ぼした影響力の大きさは多少なりとも理解しているつもりです。
合掌。
(横井盛也)