- 2012-06-29 (金) 17:52
- 横井弁護士
飲食店での牛生レバーの提供が原則禁止されることに関しては、賛否があることでしょう。北村弁護士は、断固反対の立場を表明していますが、私は、(もし生レバーが本当に危険であるならば)国家が介入し、規制することに賛成です。
国民の健康や安全を守ることは、国家最大の使命です。現実的な危険の存在が明らかになっているのに放置することは許されず、その危険を回避すべく国権を発動することは当然の責務といえるのではないでしょうか。現に数多くの薬品や食品添加物にも厳格な規制が施されています。今回の生レバーに関していえば、時機を得た正当かつ適切な規制なのだと思います。
<なぜ太平洋をヨットで渡ろうとする人を、危険だからと止めないのでしょうか。なぜエベレストに挑むアルピニストを止めないのでしょうか。なぜボクシングでもラグビーでも、わずかでも命を落とす可能性のあるスポーツを止めないのでしょうか。>
それは、危険の程度が極めて低いこと、リスクと得られる効用を比較して得られる効用が上回ると考えられること、法律等で国民一般を規制するような性質の危険ではないことなどによるものです。(さすがにスカイツリーから飛び降りようとしている人がいれば、法律等の規制がなくとも目の前にいる人たちが止めるはずですし、警察官職務執行法に基づく保護措置等をとることも可能です。)
政治の起源は、一人ひとりではできないことを誰かが先頭になって行うことを可能にするために権力を集中させるところにあるのだと思います。エジプト文明、メソポタミア文明等の古代文明は、毎年氾濫する大河に立ち向かうため権力を王に集中したとされています。現代においても、国民一人ひとりではできないことを有機的に結び付けて安全で豊かな社会にするため、国家による正当な権力の適切な行使が期待されているといった事情に変わりはないと思います。
個人の自由や権利は最大限に尊重されなければなりませんが、正当な権力の適正な行使をすべからく否定するような思想には賛同できません。日本国憲法前文には次のような記述があります。
「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」
(横井盛也)