- 2015-08-03 (月) 15:21
- 横井弁護士
猪野亨弁護士(札幌)がブログで「戦争法案に関する横井盛也氏の主張を再度、検証する」
http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-1463.html
を掲載しておられます。
「どうしてこれが会員の思想信条の自由を侵害されるということになるのか、横井盛也氏の見解に疑問」とのブログ
http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-1420.html
に対して、当ブログが「弁護士会の独善 - 安保関連法案は戦争法案ではなく、戦争をしないための法案です」と反論したところ
http://www.law-yokoi.com/blog/?p=1366
「横井盛也弁護士の反論に対する見解を掲載します」と再反論を受けたことに対して
http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-1425.html
さらなる反論をしていませんでした。
かつての牧歌的なブログに戻ろうかとも考えていたのですが様々なハレーションを巻き起こしたことについての責任もあります。
議論を深めるためにも猪野弁護士の見解に対して、再々反論を試みたいと思います。
◇
猪野弁護士は、「安全保障関連法案」を「戦争法案」と表記し、両者が同一であることは周知のことと述べておられますが、同一であることの周知性が問題なのではありません。
「安全保障関連法案」を「戦争法案」と呼称することによって、大衆を焚き付け只々反対運動を盛り上げようとする意図が透けて見えるのです。
だれも戦争をしたいなどと考えてはいません。
安保関連法案は戦争法案ではなく、戦争をしないための法案です。
安保関連法案による抑止力によって戦争や紛争を事前に防止できる可能性が高まるのか、戦争に巻き込まれるリスクが高まるのかは、法案の中身を冷静に議論し、慎重に判断すべき課題です。
安易な印象操作や誤った世論誘導は、戦時中の大本営発表や「鬼畜米英」などといった標語と相通じるものがあるように思います。
さすがに日本弁護士連合会や各単位弁護士会は、「戦争法案」との呼称は用いていないようですが、弁護士会主催の集会の写真を見れば、戦争法案と呼称する横断幕が掲げられています。
http://www.jcp-osaka.jp/osaka_now/2107
◇
弁護士会が安全保障関連法案に対する反対運動や政治活動を行っている点について猪野弁護士は総会等による会内での多数決に基づいていると主張されていますが、弁護士会がかかる高度に政治的な問題において大衆運動を行ったり、政治活動をしたりすべきでないというのが私の意見です。
弁護士会は、様々な主義主張を有する弁護士が加入することが予定されている団体であり、思想信条の根幹にかかわるような政治的な問題について多数決を取ること自体なじまないことだと思いますし、その結果によって少数意見を封殺することは許されないことだと思うのです。
反対運動や政治活動をしたければ有志で行えばよいでしょう。
◇
「弁護士会は一致」という表現については、弁護士がこぞって法案に反対していると誤解される懸念があり、全会一致でないということも知らせるためにも「弁護士会の多数派」という表現を使うべきです。
弁護士会の中には、法案に賛成する会員も確実に一定数存在しています。
自由民主党の高村正彦副総裁、谷垣禎一幹事長、稲田朋美政調会長、公明党の山口那津男代表らも弁護士会の会員です。
◇
立憲主義と一言でいっても、その用語の解釈に幅が出ることは当然です。
解釈改憲を問題にする議論もありますが、占領中に突貫作業で作られ、押し付けられた現行憲法には欠陥が多々あり、これまでも解釈改憲が行われています。
現行憲法33条の文言からは現行犯逮捕と令状逮捕以外を禁止しているとしか読めないにもかかわらず、必要性に迫られて緊急逮捕が認められている例などはその典型だと思います。
http://www.law-yokoi.com/blog/?p=642
是非とも憲法を改正すべきです。
さらにこれまで集団的自衛権を違憲としてきたこととの整合性が取れないことを理由に立憲主義に反するという議論もあります。
もっともな意見のように聞こえるのですが、憲法や法律の解釈が世界情勢や社会の実情によって変化することは当然にあり得ることです。
変化に柔軟に対応して現実的に最も妥当な解釈を目指すことは、国家の平和的存続にとって必要不可欠なことです。
現行憲法制定時には、そもそも自衛権すら持たないとの解釈をする憲法学者も多かったようですし、自衛隊創設時には自衛隊の存在そのものを違憲という意見を持つ市民も多かったようです。
かかる主張を行う政党や個人も、憲法解釈を柔軟に変化させているのだと思います。
日本は、第二次世界大戦の敗戦により対米従属を余儀なくされ、幸いそれによって平和と安全を享受することができました。
繁栄は平和なくしてあり得ませんし、平和は繁栄なくして続きません。
軽武装による軍事費の抑制、経済政策に重点を置く経済成長路線が成功したことによって今の日本があるのです。
かつての冷戦時代には、極東において突出した経済力を持つ西側陣営の防波堤としてアメリカは我が国を最重要パートナーと認めていました。
有事の際には、本気になってアメリカは日本を守ろうとしたのだと思います。
しかしなから、世界のパワーバランスは明らかに変化しています。
世界の警察を自認していたアメリカにかつての力はありませんし、軍備を増強させる中国が台頭し、独裁を続ける北朝鮮が瀬戸際外交を繰り広げています。
今のアメリカが、そして将来のアメリカがかつての力を持ち続けることができるのかは極めて疑問です。
国際連合も紛争の解決という観点からいえば、5大国の拒否権も絡んで機能不全に陥っています。
そろそろ日本も自立した独立国家として、国力に見合った防衛力を持ち、国際社会の一員としてお互い対等の立場で守り合い、発言できる普通の国になるべきであるというのが私の持論です。
憲法解釈が変化すること自体、おかしなことではありません。
法案の内容や理念は素晴らしいが、立憲主義に反するから反対するという立場からは、次に憲法改正の主張が出てくると思うのですが、憲法9条の死守や護憲を金科玉条とする特定政党と結びついているからなのか、とにかく反対というのみで思考停止に陥っているからなのかわかりませんが、議論が前に進んでいかないことが不思議です。
◇
「弁護士会で一致するとすれば、平和をより確実にする法案が立憲主義に反するか否かについてではなく、平和を望むというただ一点にとどまるのだと思います。」との見解に対し、猪野弁護士は、「これだって、平和の意味は何だということになれば、一致はなくなります。」と述べておられます。
平和を、安心安全に暮らせる戦争状態でない世の中という抽象的な意味で捉えるのであれば一致することもあり得ましょうが、具体的に平和の内容を定義しようと思えば一致しないというのは、そのとおりなのでしょう。
猪野弁護士や一部左翼政党は、諸国民の公正と信義に信頼すれば平和が手に入るし、世界の平和になど関心を持たなくても自国の平和は守れると考えているようですが、空想的な性善説を前提にした空虚な議論だと思います。
世界の平和を目指さずして一国の平和は保障されないというのが国際社会の現実です。
ポーランドやフランスはナチスドイツにあっという間に占領され、ヨーロッパは焦土と化したのです。
ソ連はポツダム会議後のどさくさに紛れて我が国に対し、一方的に戦線布告し攻撃してきたのです。
人間とは、かくも愚かな弱い生き物なのだということをまず自覚し、戦争を避け、平和を手に入れるための方策を真剣に探らなければならないのだと思います。
チェンバレンの融和政策は完全な失敗であり、連合国が早期にナチスの芽を摘み取っておけば大量の血を流さずに済んだはずです。
◇
猪野弁護士は、「権力、特に行政権は濫用されがち、それを抑止するのが司法権ですが、それだけなく、在野法曹としての弁護士会が創設されたこと、それは権力から独立した自治権を付与された弁護士会としての当然の責務として権力との緊張関係があることが想定されているのです。体制側が人権を制約したり憲法違反なことをしようとすれば、それに対する抑止勢力としての弁護士会が意思表明することはまさに在野法曹としての役割」などとされていますが、はたしてそうでしょうか。
確かに上記のように考えれば、与党と対決する政治活動団体になるのは当然ということに結びつきやすいと思うのですが、権力から自治権を付与された弁護士会だから権力と緊張関係にあることが想定されるとか権力に対する抑止勢力として反対の意思表明するのは当然の責務というのは論理の飛躍があるように思えてなりません。
弁護士は、その業務を行うにあたって権力から監督を受けず、それに代わって自治的組織である弁護士会から監督を受ける、そうシンプルに考えるべきなのではないでしょうか。
個々の弁護士あるいは有志の弁護士らが権力と緊張関係に立ち、抑止勢力として反対の意思表明や運動等を行うのは自由でありかつ必要とあらば当然に求められる行動であり、それを権力が妨害するような事態を避けるために自治権を付与していると考える方が弁護士法の条文からも素直なように思います。
弁護士法
第31条 弁護士会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士法人の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
第45条 全国の弁護士会は、日本弁護士連合会を設立しなければならない。
2 日本弁護士連合会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士、弁護士法人及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
与党に対抗する政治活動を責務と考えて熱心に弁護士活動を行う一部の弁護士のモチベーションは極めて高く、責務とまで考えない弁護士には、その暴走を止めるパワーはありません。
それが自治的組織の宿命なのでしょう。
(横井盛也)
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