弁護士のブログ | 横井盛也法律事務所 | 迅速、丁寧、的確な大阪の法律事務所

弁護士の日記帳

ブログトップページ > 横井弁護士 > 報道被害-マスコミの犯罪

報道被害-マスコミの犯罪

ある自治体の市民法律相談で中年男性から「珍しい名字なので姓を変えたい」との相談を受けたことがあります。
刑務所から社会復帰して必死になって就職先を探し、ようやく内定を得たのに、勤務直前になって不採用の通知が入ったとのこと。男性は、「パソコンに自分の名前を打ち込むと、事件の新聞記事が直ぐにヒットしてしまう。このままでは何十年たっても就職できない…」と落ち込んだ様子でした。

 

メディアにとっては日常的なありふれた報道の1つが、個人にとってはとんでもなく非日常的で大きな被害をもたらすことがある、という一例です。
犯罪者であっても、更生し、刑期を終えた後は、社会に復帰して平穏な生活を営む権利があるはずです。
事件報道が、悔い改めた犯罪者の社会復帰や更生の妨げになるようなことがあってはなりません。

 

マスコミは、権力を監視するために必要と説明し、実名報道主義を堅持していますが、驕りというほかないと思います。
そもそもマスコミに権力の監視機能を担ってもらいたいなどといった期待が存在するのでしょうか。
権力の監視といいながら、センセーショナルで大衆受けする事件(業界用語でいえば「面白い事件」、「ニュース性がある事件」)を選んで、怒涛の如く取材合戦を繰り広げて速報性を競うというのが実態で、実名での報道にこだわるのも、その方が記事のリアリティーが増すからに過ぎません。

 

逮捕された容疑者や被害者の実名を報道することが、なぜ権力の監視につながるのでしょうか。
起訴されれば、法に則って公開法廷で裁判が行われていますし、弁護人のチェックも働きます。
逮捕の段階であたかも真犯人であるかのように決めつけて容疑者の実名や顔写真を一斉に報道するマスコミにこそ大きな問題があるのではないでしょうか。
まして被害者の実名や顔写真の掲載することは、明らかに名誉、プライバシーや肖像権の侵害です。

 

事件報道の匿名化が必要です。
その流れを作るための方策として現状では、取材や報道によって財産的又は精神的な損害を受けた場合、躊躇せず抗議し、積極的に損害賠償請求訴訟を提起していくなどの方策を取るほかなく、またそれが最も効果的なのだと思います。
(横井盛也)

 

実のところ、以上は2012年10月29日の当ブログの再掲です。
残念ながらメディアは、その後も事件報道において被疑者、被告人(のみならず被害者まで!)の住所、氏名、年齢を報じ続けています。
報道被害は止まるところを知りません。

 

例えば、私が昨年弁護人を務めたある女性は、交際中の男性を包丁で刺殺しようとしたという殺人未遂容疑で逮捕され、そのことが各メディアによって実名入りで報じられました。(殺人未遂容疑で緊急逮捕されたことは事実であり誤報ではありません。)
しかし、判決では、単に包丁を持って脅したという認定で「罰金20万円」。
起訴や判決に関する報道はなく、インターネットで女性の名前を打ち込むと「殺人未遂で逮捕」の記事がヒットしてしまいます。

 

メディアは、実名報道がもたらす人権侵害について、どう考えているのでしょうか。
(横井盛也)

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村
↑↑↑ ポチっ。↑↑↑