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「21世紀の資本」トマ・ピケティ-格差社会は拡大し続けるのか

フランスの経済学者トマ・ピケティの「LE CAPITAL AU XXIe SIECLE」が世界に衝撃を与えています。
大部で難解な経済専門書(英訳本「Capital in the 21century」は696頁)であるにも関わらず、米国では出版から僅か3か月で40万部を突破する大ベストセラーとなり、各国で翻訳本が出版されています。
賛否両論巻き起こる中、ノーベル経済学者ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツらが絶賛して話題になるなど今後しばらく世界中の経済学界を二分して激しい論戦が繰り広げられることは間違いありません。
日本でも邦訳版「21世紀の資本」がみすず書房から出版され(山形浩生ほか訳、706頁、5500円)、同時に池田信夫「日本人のためのピケティ入門」(東洋経済新報社)、苫米地英人「21世紀の資本論の問題点」(サイゾー)、竹信三恵子「ピケティ入門」(金曜日)などの解説本も出版されています。
世界の潮流に遅れまいと、上記4冊を買い込み、格闘してみました。(精読したのは解説本だけですが…)

 

「r>g」。
ピケティ理論は、3世紀にわたる20カ国以上の膨大な歴史的データを分析して、r=資本収益率が、g=経済成長率を常に上回っていることを実証し、資本を運用して得られる利益が労働によって得られる利益を上回り続けているのだから、資本を持つものはますます富み、持たざるものとの経済格差は広がり続けるというものです。
そして、これを解消するためにはグローバルな累進的資本課税が必要であると説くのです。

 

ピケティ自身が「本書に書かれた答えは不完全で不十分なものだ」と認めるとおり、歴史的データは恣意的との批判を跳ね返せないのではないかと思われるほど多分な推測を含んでいますし、理論も未だ精緻なものではありません。
グローバルな累進的資本課税の実現は「有益なユートピア」に過ぎません。

 

もっとも興味深いのは、第Ⅲ部「格差の構造」第12章「21世紀における世界的な富の格差」(446~485頁)でしょう。
「多くの人が、現代の経済成長では当然ながら相続よりも労働、そして出自よりも能力が重んじられると信じている。この広い信念の根拠は何で、それは本当に正しいのだろうか?」と挑み、世界の長者ランキングの推移、それが世界の富に占めるシェア、その富の築かれ方を分析し、「資本収益はしばしば、本当に企業家的な労働 (経済発展には絶対に不可欠な力)、まったくの運(たまたま適切な時機に、有望な資産をよい価格で買う)、そして明白な窃盗の要素を分かちがたく結びつけたものだというのが実情だ」と主張します。
刺激的ではありますが、ごく一部の億万長者が存在することによる経済格差が果たして世界経済に深刻な影響を与えるのか疑問であり、特殊な事例を一般化して論じる誤謬に陥っているのではないかとの疑念が拭い去れません。

 

「r>g」だとして、それが即、経済格差の増大に結びつくものなのか。
資本の拡大によって投資が促進され経済が成長すれば、それで皆が豊かになってよいのではないか。
新興国が成長力を高め世界全体では格差は縮小しているのではないか。
課題は、格差拡大を解消することではなく、貧困をなくすことではないのか。
経済学部は出ているものの頭の悪い私には、まだまだよくわからないというのが正直なところです。

 

ある程度の富の偏在や経済格差は資本主義にとって宿命です。
経済成長の持続にはインセンティブが必要で格差も生じます。
成功者を嫉み能力のある者の足を引っ張るような風潮は社会にとって決して好ましいことではありません。
貧困をなくすために格差解消が必要だとして、どの程度の経済格差まで許容するのかの線引きは困難を極めますし、正義にかなった格差解消政策の立案、実行はほぼ不可能であるように思えてなりません。

 

とはいっても極端な格差による貧困層の拡大を防止することは、世界を安定させ平和を守るためにも必要であり、ピケティの著作を契機に今後ますます経済格差や貧困の問題が論じられることでしょう。
経済学史や経済思想史の分野において末永く研究対象となるであろう価値のある一冊だと思います。

 

2011年に米国で「ウォール街を占拠せよ!」、「1%が富を独占し、99%の市民には富が分配されていない」という反格差社会の大規模なデモが起きたことは記憶に新しいところです。
ピケティ理論が安易に扇動の書として利用されないよう、理論の深化が望まれます。

 

ピケティのwebは、 http://piketty.pse.ens.fr/en/
(横井盛也)
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